シンガポールに残る旧マレー鉄道の廃線「レイル・コリドー」を歩く
沢木耕太郎さんの『深夜特急』に憧れて、タイからシンガポールまで約1800kmを鉄道で走破した「マレー半島縦断旅」から3年。
今回は、その番外編。シンガポールに残る旧マレー鉄道跡をたどる廃線ウォークをお届けします。
旧マレー鉄道跡をたどるトレイルコース
■ 廃線を歩く「レイル・コリドー」のルート
かつてタイ国境に近いパダン・ブサール駅から、シンガポール南端のタンジョンパガー駅まで、マレー半島を南北に結んでいたマレー鉄道。
シンガポール国内路線の運航が廃止され、マレー鉄道の終着点がシンガポール北端のウッドランズ駅となったのが2011年。
自身のマレーシア縦断旅も、このウッドランズでゴールを迎えました。
今回の廃線ウォークで歩くのは、ウッズランド以南。
旧マレー鉄道跡をトレイルコース「レイル・コリドー」として整備が進む中、修復が完了した旧ブキティマ駅周辺。
MRTのヒルビュー駅から出発し、「レイル・コリドー」を南下。約4km先の旧ブキティマ駅を目指すというルートです。
「レイル・コリドー」で廃線ウォーク
■ ヒルビュー駅から出発!
漢字で「山景」と書いて、ヒルビュー(Hillview)。
MRTダウンタウン線で市街中心部から約30〜40分、シンガポール南西部に位置する郊外の町までやってきました。
駅を出ると、出迎えてくれた快晴の青空。
暑さと日焼けに戦々恐々しながらも、駅前のアッパー・ブキティマ・ロードに沿って、歩き始めます。
5分も経たない内に見えてくるのが、「レイルモール」というショッピングモール。
「スターバックス」・「トーストボックス」といったコーヒーショップやレストラン、スーパーマーケット「コールドストレージ」などが入っているので、トレイル前後のピットストップに最適。
またモールの壁面に描かれているのは、シンガポールの有名アーティストYip Yew Chong氏による、ブキティマ駅に入線する最後の列車を題材にした壁画『ラスト・トレイン』。
マレー鉄道の軌跡をたどる道程として、この作品も外せません。
■ 出入口ポイント「9マイル・プラットフォーム」
レイルモールの南端を横切る黒い鉄橋は、「アッパー・ブキティマ・トラス・ブリッジ」。
この鉄橋の脇から、いよいよトレイルコース「レイル・コリドー」に入ります。
「RAIL CORRIDOR」と書かれた黄色い看板が目印。
下に小さく記された「9 Mile Platform」というのは、このアクセス・ポイントの名称でしょうか?
階段を上がって、トレイルコースに向かって右手側は、先ほどの「アッパー・ブキティマ・トラス・ブリッジ」。
そのまま進めば、北のクランジに至ります。
旧ブキティマ駅を目指す今回のウォーキングでは、鉄橋と反対の方向へ。
ここから南に向かって、歩いていきます。
舗装はされていないものの、平らに整備された歩道。
その両脇には、自然の生命力に満ち溢れた草木が生い茂っています。
道端の標識が示すのは、マレー鉄道の終着駅だったタンジョン・パガーまでの距離、13.0km。
ただ今回の目的地は、タンジョンパガーではなく、旧ブキティマ駅までなので約3分の1となる4km ——— 普段、運動不足の初心者にも優しいウォーキング・コースです。
果てしなく続く一本道。
目の覚めるような青空と緑が織りなすコントラストが眩しい。そして、暑い!
影のある場所も所々ありますが、容赦なく降り注ぐ直射日光がジリジリと肌を焦がしていきます。
途中、ニワトリに遭遇したり、たくさんの実(?)がなる木や、綺麗なせせらぎがあったりと、小さな発見に大喜び。
そうこうしているうちに道幅が広くなり、だいぶ視界も開けてきました。
「タンジョンパガーまで、あと11.5km」と指し示す標識の裏側は、「ウッドランドまで、あと12.5km」。
シンガポール国内を南北に縦断していたマレー鉄道路線の中間地点あたり。
高架道路の下をくぐり抜けて、しばらく進むと、また黒い鉄橋が見えてきました。
写真スポットとして大人気の「ブキティマ・トラス・ブリッジ」。
線路の上を歩けば、映画『スタンド・バイ・ミー』のような気分。
この鉄橋を越えると、旧ブキティマ駅はすぐそこです。
復元された旧ブキティマ駅
■ ノスタルジック!アジアの田舎駅
旧ブキティマ駅に、到着〜!
亜熱帯のアジアを感じさせるヤシの木と青空を背景に、復元されたレンガ造りの駅舎が建っています。
実は、このブキティマ駅跡には修復が始まる前に来たことがあったのですが、その時はボロボロだった駅名標。
修復後は、すっかりキレイになって、文字もしっかりと読めるようになりました。
駅舎前に伸びる線路には、黄色いワゴンが2台。当時の鉄道保守車両を再現したレプリカです。
1932年に建設された平屋建てのブキティマ駅舎。
左側の信号室、中央の待合室、右側の事務所といった3つの部分で構成されています。
赤茶色のレンガ壁と屋根瓦が印象的な、正面ファサード。
中は、板張りの木製ベンチで囲まれた待合室。
事務所側の壁面にある切符売り場や、信号室にある線路切替レバーや信号図など、可能な限り元の状態に近い形で復元されました。
駅舎に掲げられた「772.75」という標記。
ペナンのバターワースを起点に、マレー鉄道の全線にわたって0.25km間隔で設置されていた距離標で、ブキティマ駅は772.75km地点を示しています。
遙か遠くのペナンまで続いていた線路の感触を確かめて、ウォーキングは終了。ヒルビューから旧ブキティマ駅まで、所要時間約1時間でした。
Bukit Timah Railway Station
「1932ストーリー・カフェ」で休憩
■ 旧鉄道職員宿舎を利用したカフェ
暑い中、頑張って歩いたので、駅舎の向かいにある「1932ストーリー・カフェ」で一休み。
この東西二翼に分かれた建物は、もともと駅長や副駅長の家族が暮らしていた「旧鉄道職員宿舎」。
ブラウン管テレビや黒電話などのレトログッズやビンテージ家具に彩られた店内。
車両レバーや信号機といったマレー鉄道にゆかりのある貴重な品々を展示したギャラリー・スペースもあり。
メニューも、ドリンク類はもちろん、ローカルフードからピザやパスタ、デザートまで幅広い料理がラインナップ。リーズナブルな料金も◎。
1932 Story Cafe
旧ブキティマ駅からの帰途
■ MRTキング・アルバート・パーク駅へ
旧ブキティマ駅の敷地内には、マレー鉄道の歴史を記したパネル展示や公衆トイレなどの施設が完備。
ここにも、「レイル・コリドー」に出入りするポイントがあるので、帰りはここから脱出。
約400mほど先にあるMRTのキング・アルバート・パーク駅から、帰途につきました。
全長約24kmに及ぶ「レイル・コリドー」の中でも、今回歩いたのは4kmという一区間ですが、旧ブキティマ駅舎に鉄橋と見どころたっぷり。
また周囲を豊かな自然に囲まれたコースは、ウォーキングやランニングスポットとしても人気。
「レイル・コリドー」の全ルートや各アクセスポイントの詳細は、下記の公式ページをチェックしてください。
Rail Corridor
おまけ:旧マレー鉄道、最南端駅の今
■ 保存・工事中!旧タンジョンパガー駅
ついでと言ってはなんですが、旧マレー鉄道・最南端の終着ターミナル「タンジョンパガー駅」の現状についてもレポート。
2011年のマレー鉄道線の廃止後、閉鎖されていた「旧タンジョンパガー駅」も、ただいま修繕・工事が進んでいます。
再開発プランの詳細については、まだ公式に発表はされていませんが、MRTサークルライン線の第6区間(CCL6)の新駅「カントンメント(Cantonment)」と連結・統合される予定。
再オープンは2026年と、まだしばらくかかりそうですが、旧タンジョン・パガー駅が再び公開される日を、楽しみに待ちましょう。
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