【必読】海外移住・海外転職で一番気になる「年金」と「健康保険」
海外移住・転職するときに、一番気になるのが、年金と健康保険。
日本法人から派遣される駐在員は、引き続き日本の社会保障制度のままなので、問題はありませんが、日本の会社を退職して、海外の会社に就職となると、今まで通りとはいきません。
年金・保険への加入・非加入は、自分で決める必要があるのです。
本記事では、10年近くシンガポールで働いてきた管理人が、海外に転出する前に、慎重に検討しなければならない年金・保険と、それに関わる住民票の取り扱いについて、わかりやすく解説します。
「住民票」は抜く?残す?——それが問題だ!
■ 住民票に連携する国民年金・健康保険・住民税
海外移住における年金と保険を論じる前に、まず理解しないといけないのが「住民票」。
住民票を残すか、残さないかによって、年金・保険そして住民税の状況が変わってくるからです。
国民年金 | 国民健康保険 | 住民税 | |
---|---|---|---|
住民票を抜く (日本非居住者とみなされる) |
加入は任意 | 加入は不可 | 1月1日時点で住民票があれば、その1年は課税対象。2年目以降、非課税 |
住民票を残す (日本居住者とみなされる) |
20歳以上60歳未満の場合、加入義務あり 月額16,520円(2023年度) |
20歳以上60歳未満の場合、加入義務あり | 納税義務あり |
■ 原則:1年以上日本を離れる場合、住民票を抜く
原則として、海外での滞在が1年以上となる予定であれば、住んでいる自治体(市町村の役所)に海外転出届を出す必要があります。これがいわゆる、住民票を抜くということ。
転出の2週間前から(場合によっては1ヶ月前から)提出可能で、本人もしくは世帯主・代理人(委任状が必要)が、市町村の役所で手続きを行います。
なお海外転出届を出すと、印鑑登録、マイナンバーカード(個人番号カード)、住基カード、電子証明書は、出国日(転出日)又は出国予定日(転出予定日)をもって失効します。
マイナンバー失効の注意点
銀行や証券会社での口座開設時に、マイナンバーカードの確認を行うところが増えています。転出届を提出後、マイナンバーカードが失効すると、新規開設ができなくなる可能性があるので、もし金融機関の口座開設を考えているなら、転出届の提出前に完了しておきましょう。
■ 現実:住民票を抜かない海外在住者もいる
海外転出の届出が原則ですが、住民票を抜かないまま海外移住をしても罰則はありません。実際、海外在住者の中には、あえて住民票を残したままにする人もいます。
住民票を抜くべきか、残すべきか ——— この問題について、年金・健康保険・住民税の観点から、一つ一つ考察していきます。
日本の年金制度
■ 日本居住者は強制加入、非居住者は任意加入
まず前提として、国民皆保険・皆年金を掲げている日本では、国内に住んでいる20歳以上60歳未満の方はすべて、年金に加入することが義務となっています。
通常、日本の会社員は「厚生年金」に加入していますが、会社を退職すると「厚生年金」から「国民年金」に移行(退職日の翌日から14日以内に手続きが必要)。
今回のような海外転出の場合、選択肢としては以下の2つ。
- 住民票を抜けば「非居住者」となるため、「国民年金」への加入は任意。
- 住民票を残せば「居住者」のままなので、「国民年金」への加入は義務。
■ 日本の年金制度:3種類の給付と年金受給資格
日本の公的年金による給付は、老後のための「老齢年金」のほか、万が一の時の「障害年金」と「遺族年金」の3種類。
老齢年金 | 障害年金 | 遺族年金 |
---|---|---|
65歳以降(亡くなるまで)、支給される「老齢基礎年金」。年金額は、保険料を納めた期間・在職中の給与額によって、異なります。 | 病気やけがで障害が残ったとき、障害の程度に応じて「障害基礎年金」を受け取ることができます。 | 被保険者が死亡したとき、子のある配偶者、または子は、「遺族基礎年金」を受け取ることができます。 |
老齢年金は、保険料を納付した期間(免除期間を含む)が10年以上になれば、受給資格を得られます。
「国民年金」、海外移住者はどうなる?
海外転出時、国民年金に加入が任意となった場合、加入するかどうかは自分で判断する必要があります。以下、国民年金に加入するメリットとデメリットを紹介。
■ 海外移住者が年金を支払うメリット
①老齢基礎年金の受給額が増える
将来もらえる老齢年金額を決めるのは、保険料納付期間と在職中の給与。海外転出後も、保険料を払い続けることによって、受給額のアップにつながります。
②海外在住でも年金は受け取れる
日本から転出する人の中には、いつか日本に戻る人もいれば、海外で永住する人もいます。
永住派にとっては、65歳になったとき、海外に居住していても年金が受け取れるのか気になるところ。
海外在住者も、「年金請求書」を出すことで日本の老齢年金を受給することができます。年金の送金は、日本の銀行口座でも海外の銀行口座どちらでも可能。
年1回、提出が求められる「現況届」に、滞在国の日本領事館などで発行された在留証明書を添付する必要があります。
③万が一のときの障害年金・遺族年金
障害年金・遺族年金があるのも、万が一のときの助けになりますね。
■ 海外移住者が年金を支払うデメリット
①毎月16,590円の保険料
国民年金保険料は、年齢・所得・性別に関係なく一律月額1万6,520円(2023年度)。
一年に換算すると、計19万8,240円の出費。
ちなみに前納制度を利用すると、ちょっとお得になります。
口座振替 | 現金納付 | |
---|---|---|
6ヶ月前納 | 9万7,990円(毎月納付より1,130円の割引) | 9万8,310円(毎月納付より 810円の割引) |
1年前納 | 19万4,090円(毎月納付より4,150円の割引) | 19万4,720円(毎月納付より3,520円の割引) |
2年前納 | 38万5,900円(毎月納付より1万6,100円の割引) | 38万7,170円(毎月納付より1万4,830円の割引) |
②将来、どれくらいもらえるかわからない
将来的に支給額の減額や受給年齢の引き上げの可能性など、不透明な部分がある日本の年金制度。とくに現役世代にとっては、負担が増えるばかりで、いくらもらえるのか分からない…。
世代間における不公平感も否めず、支払い義務があっても、未納を選ぶ人も増加しているようです。
■ 年金に加入するなら、転出前に手続きを!
以上を考慮の上、最終的に年金に任意加入するかどうかは、自分の判断となります。もし、加入する場合は、転出前に市町村の窓口で手続きをしましょう。
任意加入
「健康保険」、海外移住者はどうする?
年金同様、国民皆保険制を導入している日本において、健康保険は社会保障の柱の一つ。
海外に移住・転職しようとする際、万が一、病気や怪我をしたときの支えとなる医療保険をどうするのかは、ちゃんと考えておかなくてはなりません。
■「健康保険」の種類と違い
一口に「健康保険」といっても、職業(会社員・公務員・自営業など)によって、加入する保険が異なります。
健康保険組合 | 共済組合 | 国民健康保険 | |
---|---|---|---|
対象 | サラリーマンなど、民間企業等に勤めている会社員とその家族が加入 | 公務員や私立学校の教職員が対象 | 会社の健康保険や公務員の共済組合などに加入していない、75歳未満の日本居住者 |
保険料 | 被保険者の標準報酬月額(4月~6月の平均給与)をもとに計算。
保険料については雇用者(会社・学校など)と被保険者が折半して負担する「労使折半」。 |
各自治体(都道府県・市町村)が保険料率を算定。 住民票の世帯単位で、「扶養家族の人数」「年齢」「前年の所得金額」をもとに計算が行われます。 |
■ 「国民健康保険」を左右する住民票の有・無
日本の就業者の大部分を占める会社員が加入しているのが「健康保険」、いわゆる「健保」。
通常、会社を退職すると「健保」からは脱退。「国保(国民健康保険)」に加入することが義務づけられています。
ただ今回のように、海外転出というケースになると、住民票の有・無によって、加入の可否が決まります。年金のときのように、任意加入という選択肢はありません。
- 住民票を抜けば「非居住者」となるため、「国民健康保険」へは加入不可。
- 住民票を残せば「居住者」のままなので、「国民健康保険」への加入は義務。
1年以上の海外転出の場合、住民票を抜くことが原則とされている中で、あえて住民票を残しておく人の大半は、この「国民健康保険」に加入するためという理由によるものです。
【一時帰国時の治療】
一時帰国時に日本の病院で治療すれば「国保」適用で3割負担。海外には、医療費が高額な国も多い(シンガポールもその一つ)ので、魅力的な話のように感じますが、突発的な病気やケガには、対処できません。
【海外療養費】
国民健康保険には、被保険者が海外渡航中に急な病気やケガで治療を受けた場合、現地で支払った医療費を補填する「海外療養費」というものがあります。
しかし、この制度の対象となるのは、あくまでも短期の海外渡航者。
- 長期滞在者は対象外と判断される可能性
- 日本で保険適用される治療を対象としているため、現地での治療内容によってはカバーされない可能性
予想外のこともおこりうる海外移住において、医療保険を日本の「国民健康保険」だけに頼ることは、おすすめできません。
■ 民間の「医療保険」に入るのが安心
海外で就職先が決まっているなら、会社の福利厚生などで医療費補助があるか確認しましょう。
一定規模以上の企業なら、従業員やその家族のために団体医療保険に加入し、ある程度の医療費サポートをするところも多いです。
会社のサポートだけでは(家族が多くて足りないなど)不安な場合や、雇用先の医療保障がない場合は、個人として民間の医療保険に加入するのが、最も確実だと思います。
海外転出時の「住民税」
最後に、「住民税」についても触れておきたいと思います。
原則、個人にかかる住民税は、その年の1月1日に日本国内に住民登録のある人が対象。年の途中、例えば4月1日付けで海外へ転出しても、1年目は課税、2年目から課税されなくなるという仕組み。
これは原則どおり、住民票を抜いて出国したときの事例です。
住民票を残したままにする場合は、居住者とみなされるので、ずっと住民税を払う義務が生じます。
住民票の扱いを考える上で、住民税についても一緒に理解しておかなくてはなりません。
まとめ
こっちを立てれば、あっちが立たず…。なかなか悩ましい、海外移住時の「年金・保険」問題。
住民票を抜く | 住民票を残す |
---|---|
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最終的に、何を優先するかは、自分で決めなければなりません。
年金・保険は、万が一があったときに支えてくれるセーフティ・ネットですから、安易に考えず、しっかりと準備しましょう。
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