世界が注目!シンガポールの近代モダン建築を巡るアート散歩「建築編」
【更新】スカイ・ハビタットを追加
今まで2回にわたり、「壁画編」・「オブジェ編」と続けてきたアート散歩。
第三弾となる今回は、「建築編」。未来都市シンガポールのスカイラインを形成するモダン建築を巡ります。
人を呼ぶ建築ー全てはここから始まった
■ 全てはここから始まった「マリーナベイサンズ」
2010年、シンガポールの湾岸に開業するやいなや、その度肝を抜く建築で世界中の注目を集めた「マリーナベイサンズ」。
ホテル・カジノ・ショッピングモール・劇場・コンベンションセンターなどを併設する統合型リゾート施設です。
総工費約56億米ドル(約7250億円)の超大型プロジェクトは、イスラエル系カナダ人建築家モシェ・サフディ(Moshe Safdie)による設計。
高さ約200mのホテルタワー3棟で、屋上階にある「インフィニティープール」と「サンズパーク(空中庭園)」を支えています。
ベイエリアの風景・観光は一変させたマリーナベイサンズ―――この成功がシンガポールの『建築=観光資源』とする戦略の原点ともいえるでしょう。
Marina Bay Sands
■ ジュエル・チャンギ・エアポート
マリーナベイサンズを設計したモシェ・サフディが、シンガポールで手掛けた最新プロジェクトが「ジュエル」。
2019年、チャンギ空港に誕生した巨大な複合施設です。
一番の目玉は、ガラスドームの吹き抜け天井から流れ落ちる「HSBCレイン・ボルテックス」。
地上5階から地下二階までを貫く約40mの人工滝の裏側を、各ターミナルを結ぶスカイトレインが行き交う光景は、まさに近未来。
空港という枠組みを超えたジュエルは、たちまち人気の観光名所となっています。
Jewel Changi Airport
ワールドクラスの集合住宅
斬新な建築デザインを採用するのは、公共施設だけではありません。
好況が続くシンガポールの不動産市場では、住居用コンドミニアム(マンション)開発に、ワールドクラスの有名建築家を招致。
集合住宅の傑作がたくさん誕生しています。
■ 2つの階段状タワー「スカイ・ハビタット」
ビシャン地区にある「スカイ・ハビタット」は、前述のモシェ・サフディが設計したコンドミニアム。
1967年、サフディがモントリオール万博で発表した実験的な住宅開発『アビタ67団地(Habitat 67)』と同様、コンクリート製キュービクル・モジュールがコンセプト。
階段状の住宅タワー2棟が、3本の空中歩廊で結ばれたユニークな構造となっています。
Sky Habitat
■ ジェンガ風!ブロック建築「インターレース」
シンガポール南端の市街中心部(CBD)と西端の郊外をつなぐ高速道路沿いに建つ「インターレース」。
ブロックを積み重ねたジェンガ風デザインが異彩を放つ、総戸数1,040戸の大規模コンドミニアムです。
一般的な垂直型タワーマンションとは一線を画すブロック型の集合住宅は、ドイツ人建築家オーレ・シェーレン(Ole Scheeren)による設計。
2015年、世界で最も権威のある建築の祭典「World Architecture Festival(WAF)」で、その年のグランプリにあたる「ワールド・ビルディング・オブ・ザ・イヤー」を受賞。
The Interlace
■ 空を切り裂くガラスの牙「リフレクションズ」
高層のタワー6棟と低層ヴィラ11棟、計1129戸で構成される「リフレクションズ」。
9.11で倒壊したニューヨーク世界貿易センターの再開発で有名なダニエル・リベスキンド(Daniel Libeskind)が設計したコンドミニアムです。
空に向かって、高さと向きを変えながら、なめらかな曲線を描くガラス塔。ケッペル湾のウォーターフロントにそびえるランドマークです。
シンガポール建築建設局の「BCAグリーンマーク・金賞」を受賞。
Reflections at Keppel Bay
施設がすごすぎる!南洋理工大学
2023年の世界大学ランキングで、東京大学(39位)を抜き、36位にランクインしたシンガポールの南洋理工大学(Nanyang Technological University)。
シンガポール西の郊外、約200ヘクタール(約2.0㎢)の広さを誇るメインキャンパスには、校舎、研究所、寮、食堂など、必要なインフラが全て整っています。
こんな大学なら、毎日通ってもいいかも。
■ 蒸籠ビル!ラーニングハブ「The Hive」
2015年に完成したラーニングハブ「ハイブ(The Hive)」は、英国人デザイナー、トーマス・ヘザーウィックが設計。
飲茶を入れる蒸籠(せいろ)に似ていることから、「飲茶籠ビル」とも呼ばれる建物。
12棟の蒸籠タワーが、アトリウムを囲むように配置されています。
計56の教室が集まる内部。従来の廊下という概念ではなく、バルコニーのような共有スペースで、各空間をつなげる有機的な構造が秀逸。
シンガポール建築建設局の「BCAグリーンマーク・プラチナ賞」を受賞しています。
The Hive
■ 自然と建築が融合した「ADM」
2009年、新たに設立された「アート・デザイン・メディア学部(School of Art, Design and Media)」のメイン校舎。
緩やかにカーブしたガラス張りの建物に、芝生が敷き詰められた屋根が目を引きます。
キャンパス内の緑豊かな環境に調和するだけでなく、断熱効果にも役立つ屋上緑化。
景観とデザイン、自然とハイテクを融合させたモダン建築の好例です。
School of Art, Design and Media
建築に登場する縁起の良い形
風水やゲン担ぎなど、中国文化が日々の生活に息づくシンガポール。
長寿を意味する亀甲紋の「六角形」に、幸運を引き寄せる八方位を象徴する「八角形」など、シンガポールの近代建築に登場する「縁起の良い形」を探してみました。
■ 六角形のハニカム構造「デュオ」
ブギス駅直結のツインタワー「デュオ(DUO)」は、住宅・オフィス・ホテル・店舗からなる複合施設。
前述の「インターレース」と同じ、ドイツ人建築家オーレ・シェーレン(Ole Scheeren)による設計です。
湾曲するビルの外観を覆いつくす、六角形の亀甲パターン。
内側からの眺めを遮ることなく、太陽の熱やまぶしさから建物を守るシェーディング・システムとして機能しています。
■ ポストモダンな八角形の塔「コンコース」
カラン川のほとりで一際目立つ、約175mのタワー型ビル「コンコース」。
1950年〜70年代に台頭した「ブルータリズム」を代表する建築家、ポール・ルドルフ(Paul Rudolph)が晩年に手掛けたプロジェクト。
真上から見ると、タワーの形は、中華文化圏において最も縁起のよい形である「八角形」をしていることでも有名。
シンガポールに残るポストモダン建築の遺産です。
The Concourse
目の錯覚マジック!? トリック建築
見た目に騙されていませんか? それはあなたの思い込みが作り出した錯覚かもしれません。
シンガポールに存在する、世にも奇妙な建築物語…。
■ 薄っぺらなビル「ザ・ゲートウェイ」
ビーチロード沿いにある37階建のオフィスビル「ザ・ゲートウェイ」。
パリ・ルーヴル美術館のガラス・ピラミッドの設計で知られる、中国系アメリカ人建築家イオ・ミン・ペイ(Ieoh Ming Pei)が手掛けたもの。
ナイフのように尖った超鋭角を持つ平行四辺形のビルは、角度によっては、厚みのないペラペラな構造物のように見えます。
思わず二度見してしまうトリック建築。
The Gateway
■ うねる歩道橋?「ヘンダーソン・ウェーブ」
地上36mの高さにかかる「ヘンダーソン・ウェーブ」は、シンガポールで最も高い場所にある歩道橋。
マウント・フェーバー公園とテロック・ブランガーヒル公園を結ぶウォーキング・コース上に位置しています。
橋の片側に、補強材を曲線状に設置することで、橋が大きく波打っているような視覚効果を創出。これが、ウェーブと呼ばれる所以です。
建築上の構造を逆手に取ったデザインで生み出した、遊び心のあるイリュージョン。歩道橋一本でさえ、ただの橋では終わらない―――さすがシンガポールでございます。
Henderson Waves
まるで宇宙船?SF世界の建物
最後にご紹介するのは、ちょっとSFチックな建造物。自己満足の世界ですが、よければお付き合いください。
■ MRTタンパニーズ駅
シンガポール東部のターミナル拠点として、MRTの東西線とダウンタウン線の2路線が乗り入れるタンパニーズ(Tampines)駅。
この駅で、ひそかなお気に入りスポットが地下の改札口に続く階段(エスカレーター)。
楕円形のトンネルに、一点に集約する直線ラインがかっこいいスペースシャトル風です。
MRT Tampines Station
■ ガンダムの宇宙空母風「スタービスタ」
市街中心部から離れた、静かな郊外の駅前にいきなり現れる「スタービスタ(The Star Vista)」。
シンガポール最大のオーディトリアムを擁する劇場と、ショップ・レストランなどの店舗で構成された複合施設です。
劇場空間を覆うガラスといい、その左右の凸凹具合といい、ガンダムとかに出てくる宇宙空母みたいじゃありませんか?
ホワイトベースと名付けよう!
The Star Vista
建築を観光名所として活用するシンガポールは、建築探訪にぴったり。
地震のない国ならではの、常識に囚われないアイデアから生まれた建築の数々を、ぜひ自分の目で確かめてください。
今回の「建築編」以外に、アート散歩「壁画編」・「オブジェ編」はこちらから。
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